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船越達志准教授が日本中国学会賞を受賞

 

中井政喜(中国語学科)

 

 中国語学科の船越達志先生が、2010年度の日本中国学会賞を受賞されました。今年10月、広島大学にて開催されました2010年度全国大会会員総会において授賞式が行われました。日本中国学会は、日本における中国研究(中国哲学、中国文学、中国語学等の分野)の代表的学会の一つです。毎年度、哲学・思想部門、文学・語学部門において優秀な論文を対象に学会賞が贈られます。時には、その年度において、該当者がいない場合もあります。

 

 今年度、文学・語学部門において、船越達志先生の「巧姐の『忽大忽小』と林黛玉の死――《紅楼夢》後四十回の構想考――」(『日本中国学会報』第61集、20091010)が学会賞を獲得されました。中国学科の教員一同、大変名誉なことであると思い、ともに喜んでいます。

 

 船越先生の論文の内容を、僭越ながら、概略ご紹介いたします。

 

 『紅楼夢』(全百二十回)は、清朝の時代に完成した古典白話小説(当時の口語で書かれています)です。宝玉と林黛玉の悲恋と、彼らの属する貴族家庭の栄枯盛衰を描き、悲劇の傑作として知られます。前八十回は曹雪芹の原作で、後四十回は続作者の手になります。

 

 船越先生は、後四十回の隠された意図を次の点から明らかにします。巧姐という女性が第九十二回においては、少女として登場しながら、第一百一回において(物語の時間の中では翌年のことであるにもかかわらず)、嬰児として登場するという矛盾を取りあげます。第九十二回において、少女巧姐は賈宝玉から勉強の進み具合を聞かれ、『女孝経』を読み、『列女伝』に進んでいると答えます。賈宝玉は『列女伝』の女性について講釈します。物語の同時刻において、巧姐の母は、司棋(ある男と情をかよわせながら、親から許されず、自死する)の母親から司棋の自死の経緯を聞きます。続作者はこの構成によって、司棋に烈女(貞節を守って自死する女性)としてのイメージを読者に強めます。

 

 船越先生は、こうした続作者の構想が後四十回に貫かれていると考え、林黛玉の死(賈宝玉との結婚が不可能であることを知り、自らの命を縮める生活をして死ぬ)にも、司棋の死のイメージが重なり、烈女のイメージを林黛玉にも漂わせている、ととらえます。ここには、林黛玉の死を少しでも肯定的な方向に近づけようとする、同情すべき形にしようとする続作者の意図があることを、船越先生は指摘しています。

 

 船越先生は先行研究を十分に検討したうえで、ご自分の独自な見解を立てています。船越先生は、後四十回の構成上にミス(巧姐の年齢)があることを認めつつ、その構成の意味を手がかりに、後四十回全体における続作者の隠された意図を明らかにしました。

 

 素人の中井が読んでも、船越先生の論は大変明快な論旨で、深い説得力があり、興味深い内容です。『中国学会報』第61集は図書館に備えられていますので、どうぞご一読ください。

 

  そのほか、船越先生が学位論文を公刊された次の著書も、図書館にて見ることができます。『《紅楼夢》成立の研究』(汲古書院、20051220

 

 

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