平成24年度中国語学科卒業論文概要
高齢者へ向けた中国広告について
~広告分析から見える高齢者の理想とする生活とは~
小林香淑
2012年10月23日付の北京晩報によれば、2011年度末、北京市の全戸籍人口は1277.9万人。そのうち60歳以上の高齢者人口は247.9万人にものぼり、全体の19.4%を占める。要するに、5人のうち1人は高齢者だということである。こうした高齢者人口の増加傾向は今後も続く見込みで、こちらも2030年には500万人、市全体の30%を占めると推定されている。
さらに、高齢者人口増加の問題にとどまらず、中国社会の高齢化は複雑な問題を抱えている。それは、先進国社会に比べて中国は猛スピードで高齢化が進み、人々の生活が豊かになる前に高齢化社会に突入しているということだ。
中国の伝統的な考え方に、「人丁兴旺(家族が増える)」とか「四世同堂(4世代同居)」というのが、最も理想的な家族のモデルであったという。高齢者は住み慣れた自宅で親孝行な息子(あるいは娘)とその妻(あるいは夫)にお茶を入れてもらい、庭で椅子に座って、楽しそうに遊びまわる孫たちを眺めて過ごし、天寿を全うするという構図である。高齢者カットが用いられた各業種の広告分析より、白色を基調としながら家族成員が笑顔で描かれたデザインの、とりわけ3世代団欒の理想となる暮らしの典型を見ることができた。
だが、理想の生活を簡単に手に入れられないのが現実である。「421家庭」をご存じだろうか。1組の夫婦が双方の両親合わせて4人を扶養し、一人っ子を養育するというものだ。高齢者人口はますます増加し、こうした421家庭が大量に出現する時代になり、働く世代の負担はますます増大するのは確実である。したがって、働く世代にとって、自宅で両親の面倒を見るという伝統的習慣は困難なものとなるだろう。
こうした時代の流れから、様々な面で高齢者に向けたサービスを提供する機構が発展しつつある。依然として、家族と一緒に暮らすことを望む高齢者が多い一方で、「自分の老後は自分でケアする」という新たな意識が芽生えた高齢者もいる。高齢者が理想とする老後生活の送り方は実に多様化しているといえる。中国古来伝統の習慣に沿えなくても、できるだけ高齢者の理想を叶えてあげられるよう努力することでお互いの妥協点となる。